自分の首元目掛けて振り下ろされる一撃を見ても士郎に驚愕も恐怖もなかった。

諸葛弩の腐敗の速度を上回る再生能力を見たが故に、村正の崩壊能力も耐え切ると予測はしていた。

ここまでの速度は予測外だったが。

ともかくも村正を発動させた時点で既に手は打っていた。

「刻印起動(キーセット)、時間領域(ゾーンタイム)」

四十二『王国』

「死ねえ!『錬剣師』朽ち果てろ!」

オーテンロッゼの咆哮にかき消されたが士郎は静かに詠唱を唱える。

「・・・・・・・(固有時制御、三倍速)」

同時に士郎の身体能力は三倍に引き上げられ髪を十本単位で切り飛ばされたが回避に成功、立て続けに三本の刀、虎徹、左文字、村正を咽喉笛、眉間、心臓に突き刺すと刻印の起動を変える。

「刻印変更(キー・チェンジ)空気領域(ゾーンエアー)・・・我が手に集まりし空気、砲弾となり我が敵を滅ぼす(キャノン・エアー)」

「!!げはあ!」

オーテンロッゼの腹部に手を押し当ててほぼ零距離で撃ち放たれた空気の砲弾は流石に効いたらしい。

蛙が潰されたような声を発して、オーテンロッゼが吹き飛ぶ。

そこに追い討ちをかけるように

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

一斉に三本の刀は爆発する。

零距離所か体内での爆発にオーテンロッゼの頭部は見事に四散、胴体部分も大きく抉れている。

「ふう・・・やったか・・・」

「まだだ!士郎!そいつの再生力は半端じゃねえぞ!」

後ろからセタンタが注意を促す。

実際、オーテンロッゼは既に胴体部分から再生を開始、瞬く間に体が再生されてしまった。

「おいおい・・・」

あまりと言えばあまりな再生能力に士郎も絶句する。

かつて志貴と共に赤月の夜に名も知らぬ上級死徒と戦った事があるが、その時も無尽蔵と思える再生能力に辟易した事もある。

しかし、今のオーテンロッゼのそれはあの時の上級死徒以上、あの時無尽蔵と言う言葉を無遠慮に使った自分が恥かしくなるほどの差だ。

祖とただの死徒の差と言えばそこまでだが、それだけではないような気がする。

だが、士郎には思考する暇も与えられない。

完全に再生を遂げたオーテンロッゼが爆発的な突進で士郎目掛けて肉薄してきた。

「っ!我が周囲の空気は鋼鉄となし、我の敵全て阻む(アイアン・エアー)!!」

それを空気の壁が受け止めるが、魔力が抜け落ちる壁はいつものそれとは明らかに弱く、直ぐに粉砕される。

だが、次に待ち構えていたのは

「投影開始(トレース・オン)、万兵討ち果たす護国の矢(諸葛弩)!」

再び撃ち出された矢の雨。

「馬鹿の一つ覚えか!結果は同じだ!」

それをせせら笑いながら防壁を二重に両方とも魔力を込めに込めて張り巡らせる。

だが、次に防壁目掛けて打ち込まれたのは『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』ではなく、一発の銃弾。

それが防壁に当った瞬間、オーテンロッゼは巨大な拳で殴り飛ばされたように大きく宙を舞う。

「!!!!!!」

声にならぬ絶叫を響かせ、血反吐を吐きながら。

そのオーテンロッゼに追い討ちをかける様に矢は次々と突き刺さる。

そして、オーテンロッゼの全身くまなく矢が刺さったと見るや

「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」

士郎が止めとばかりの詠唱で矢は一斉に爆発。

オーテンロッゼの肉体は文字通り四散した。

更にこれで終わりにしない。

「我が周囲の空気は翼となり我、天を舞う(ウィング・エアー)」

空気の力で浮き上がるとその手には破邪の炎槍。

「神仙達の裁き(火尖槍)!」

炎は大地を舐め、細かく四散したオーテンロッゼの肉体、更に爆発でいまだ浮遊する血飛沫をも蒸発させる。

しばらく放射しようやく一息つける。

「どうだ・・・」

士郎としては考え付く限りの方法で肉片を焼き尽くし、血すらも蒸発させた。

おまけに焼き尽くした炎は破邪のもの、これで勝負を決せられなければ・・・

「くくく・・・」

そんな希望を打ち砕くようにオーテンロッゼの嘲笑があたりに響く。

「くくく・・・惜しい、実に惜しい、残念だったなあ・・・『錬剣師』」

その台詞と地面からオーテンロッゼが這い出してくるのとは同時だった。

「くっ・・・血か自分の体の一部を地面に埋め込んだのか」

事態を把握して、体勢を立て直す。

「まだ戦うか?諦めろ。どの道貴様に勝ち目は無い」

そんな士郎に残忍な言葉を突きつけるオーテンロッゼ。

その表情は優越感に満ち、強者が弱者を生かさず、殺さずじわじわといたぶる事の快感に満ちていた。

「生憎だが、俺は諦めない。たとえ僅かでも希望があるのならばそれを手にする為に足掻く。俺はそうやって生きてきた」

「くくくっ、それは何か?貴様の下らない実現不可能な夢物語の為か?」

「・・・っ・・・」

優越の笑みを絶やす事無くオーテンロッゼは士郎を言葉でいたぶり始めた。

「調べさせてもらった。貴様の事を何から何まで、そして貴様が抱く夢想家の戯言も。愚かな、愚か過ぎて笑いしか出てこぬ。正義の味方?有史より正義の数など天に瞬く星よりも多い。どんなに足掻こうと人は自分の視界に入る者しか救えぬ」

「・・・」

オーテンロッゼの追い詰めるような嘲りの言葉に士郎は一言も反論はしない。

後方の凛達も反論しなかった、いや出来なかった。

士郎の夢がどれだけ実現不可能な夢物語であるかなど良く判っている。

だが、それを彼女達はどんなに反発したとしても、それだけは士郎に面と向かって言う事はしなかった。

たとえその胸に抱く夢は大きすぎたとしても、その夢を叶える為、士郎がどれ程のものを積み重ねてきたのか良く知っているから。

「更に傑作なのはその夢とやらも、人から受け取ったいわば使い古しの貰い物。それをあたかも自分のものだと錯覚しているに過ぎぬ」

反論出来ぬと判断したのかオーテンロッゼは更に饒舌に士郎を言葉の刃で切り裂きに掛かった。

「そして貴様の力も過去の英雄の力を借り受けているだけ。つまりだ貴様には貴様自身が考え創り出したもの等何一つ無い。何もかも人から貰い人から借り、あるいは奪った紛い物だらけ。つまりはだ」

そしてオーテンロッゼは止めの一言を

「貴様は存在自体が偽者、紛い物単なる物まねに過ぎぬ。貴様は存在価値すらもない、取るに足らぬつまらない存在だと言う事だ」

発した。









「・・・確かにな貴様の言い分には真実の一面があるな」

三十秒ほど無言を貫いた士郎だったが、この場にいる全員の予想に反して発せられた声は静かで穏やか。

その台詞はオーテンロッゼの言い分を認めたものだった。

「俺の夢も理想も人(爺さん)から貰ったもの。今の力も人(数多くの英雄やエミヤの先人達)より借り受けたもの。ここに俺個人の存在は欠片とてない。この面から言えば俺は存在価値すらないのかもしれない」

そこで言葉を区切り、オーテンロッゼの真正面から見やる。

その眼の強さは僅かとて揺らいでもかすんでもいなかった。

「だがな、たとえ貰い物だとしてもこの夢に理想に向って進むと決めたのは俺だ。借り物でもそれを極めようと足掻いてきたのも俺だ。何よりも始まり(あの日)から今日まで、歩んできた行程もまた俺のものだ。遠回りもした、道に迷った、蹲り折れそうになった事だってあった。それでもここまで歩いてこれた。大切な仲間と大切な人達のおかげで。例え俺の中にあるもの全てが贋物だとしても、これだけは俺の中にあり俺が誇るべき真実、これだけは誰にも否定はさせない」

士郎は自分の全てが紛い物と認めながらも、その行程だけは自分の真実だとはっきり断言した。

その静かなれども強き魂の篭った声と眼光に一瞬だけ後ずさりしかけたオーテンロッゼだったが、直ぐに自分の圧倒的な有利な状況を思い出す。

「ははははっ!口だけならば何とでも言える。だがな貴様今の状況わかっているのか?いまや我が固有結界『霧中放浪(ミストロード)』で貴様らの魔力は抜け落ちる。ご自慢の投影の宝具もそう時間をかける事無く消えていく。そして今の私は赤月の夜と同じ力を発揮でき、この身体はまさしく不死身。これでどうやれば勝てるのだ?答えられる筈はないだろうがな!」

それは全員痛いほど判る。

この霧・・・固有結界を打破しない限り自分達の敗亡は必至なのだから。

「さて無駄なおしゃべりはここまでだ。私にはやるべき事と私にこそ相応しい最高側近と言う栄光が待っている。このような身の程知らずの虫けら如きに苦戦するような『影』を追い落としてな!!」

そう言うや三度爆発的な突進で今度こそ士郎の首を掻き切ろうとするが

「刻印起動(キーセット)、時間領域(ゾーンタイム)・・・(固有時制御三倍速)」

一気に加速した士郎がその攻撃を避けると、懐から別の銃を取り出し頭上目掛けて発射する。

それと同時に撃ち出された照明弾が一時的に全員の影を作り出す。

同時に投影でありったけ創っておいた黒鍵をオーテンロッゼの影に突き刺す。

「!!」

「これで少しは時間を稼げる」

そう呟き士郎はオーテンロッゼから少し距離を取る。

「ふ、ふふふ、何をするかと思えば時間稼ぎか?下らん、ここではこのようなもの無力だと理解していないようだな」

オーテンロッゼの言う様に既に黒鍵は一部欠け始めている。

この速度では長い時間持ちはしない。

「この短い時間で何をする?ご自慢の投影を使うのか?無駄だ。結果がどうなるか良く判っていると思うが」

いかなる強大な宝具の一撃でも血の一滴、髪の毛一本でも存在していればそこから再生を果たす以上有効とは思えない。

「貴様ではこれが限界だと言う事だ。紛い者、偽者である貴様には!」

オーテンロッゼには引導を渡すように言い放ったのだが、士郎は意外にも何も反応はせず、ただ静かに肯定した。

「そうだな。ああそうだ。俺は本物ではないだろう。間違いなく偽者なんだろうな」

「??」

「そうさ。あそこに長い間居座ってようやく気付いた。俺が持つ力は・・・俺が本来使える力は強化でも投影でもなかったんだ」

そう呟き静かにそれを紡ぎ始めた。









「・・・・・・(身体は剣で出来ている)」

それは一人の男が歩む事になる生涯。

「・・・・・・(血潮は鉄で心もまた鋼)」

守り抜くそう決めた男の人生

「・・・・・・(数多の悲劇目の当たりにしても、我が剣は決して折れる事無くこれを全て防ぎ、ただ一つの悲しみも生み落とす事も無く。ただ一滴の悲嘆の涙にも暮れさせない)」

例え妄言と罵られようと愚者の夢物語と嘲笑われようとも進むと決めた。

「・・・・・・・(守り手此処にただ一人、始まりの地にて全てをただ見守り続け道を切り開く)」

そして、その鋼の意思は彼に一つの奇跡を与えた。

「・・・・・・・(我が理想は仮初、されどそこに在る想いだけは真実なる我が生涯において追い求められる意義などこれただ一つ)」

少しずつ、士郎の足元から異変が起きつつあった。

纏わり付くような霧が士郎に恐れる様に士郎から離れつつある。

「・・・・・・・(全ての始まりにして、全ての終わりを司り、全ての安らぎの地にして全ての終焉の場所を指し示す)」

その隙間を埋める様にかすかな光が大地を照らす。

そして

「・・・・・・キングダム・オブ・ブレイド(全ての故郷たる剣の王国を守りし王たらん事のみ)」

奇跡は紡がれた。









「・・・・・・(身体は剣で出来ている)」

その詠唱を聞いた時、凛の鼓動は跳ね上がった。

同じ詠唱を彼女はかつて聞いた事があった。

正確には夢の中でと言う注釈付きであるが。

半年以上前、たった数日の『聖杯戦争』において、彼女の剣となり戦った彼・・・サーヴァント、アーチャー=英霊エミヤ。

裏切られても憎まれても唯一つの誓いを守り通し、人々を救ってきた彼の生涯。

その果てに疲れ果て、磨耗し過去の自分を殺す事でしか贖罪の道を見出す事が出来なくなった彼。

あの時、彼はこの世界の士郎は危うさもかつての自分以上と評していた。

そして、自分と桜、そしてイリヤに彼を導くよう頼んだのだ。

無論それを皆了承し、その後、アルトリアもメドゥーサも協力してくれた。

さりげなく士郎を彼と同じ道に行かせない為に、してきたつもりだった。

にも拘らず彼はこの道に至ってしまったのか。

思わぬ事に全身から力が抜けていくのを自覚していた。

聞きたくない。

だが、なぜか両手は動かず、その耳に士郎の詠唱が響く。

「・・・(血潮は鉄で)」

やはり同じなんだと自分の無力を恨みかけた。

しかし、次の言葉を聞いた時凛は自分の耳を疑った。

「・・・(心もまた鋼)」

「へっ?」

自分の耳を疑いそして声にも出していた。

「桜・・・いまあのバカなんて言った?」

「え?確か・・・血潮は鉄で・・・えっと」

「心もまた鋼よリン」

桜の言葉をイリヤが補足する。

「どう言う事?あれじゃあないの?」

「あれ?あれって何よリン」

そう言っている間にも士郎の詠唱は続き遂に最後の一説を紡ぎあげた。

「・・・・・・キングダム・オブ・ブレイド全ての故郷たる剣の王国を守りし王たらん事のみ)」









「・・・・・・(身体は剣で出来ている)」

その詠唱を聞いてもオーテンロッゼに焦りは微塵も無い。

彼の影を縛る黒鍵は次々と崩壊消滅し、自分の影を埋めるほどだったそれは既に三本まで減っていた。

このまま行けば一分しない内に彼は行動の自由を取り戻すだろう。

だが、彼は敢えて彼の詠唱を最後まで唱えさせるつもりだった。

何の事はない。

どう足掻こうとも自分の勝利は揺るがないと確信を抱いている。

『赤月の涙(スカーレット・ティアー)』で極限まで力を高めた自分と『霧中放浪(ミストロード)』。

これを打破できる者等いない。

いかに強大な宝具だろうと仮に固有結界を発動させたとしても無駄。

『霧中放浪(ミストロード)』は別の固有結界にも侵食し固有結界の魔力を食い尽くす性能すら誇っている。

そして士郎は最後の切り札が通用しないという最大級の絶望に跪くだろう。

その時になってからゆっくりと恐怖を引き出し嬲り殺す。

その時の士郎が発する悲鳴や絶望と恐怖の表情を思い悦に入るオーテンロッゼ。

しかし、彼は最もやってはいけない事をやった。

戦場において油断や慢心は即、死に繋がる行為だと言う事。

現に気付かなかった。

士郎の周囲の霧が押し退けられ、その空白を埋める様に光が照らし出し始めた事を。

だが、仮に気付いたとしても間に合わない。

オーテンロッゼが全ての黒鍵を破壊して士郎に襲い掛かるのと、士郎が全ての詠唱を唱え終える。

後者の方がわずかに速かったのだから。









「・・・・・・キングダム・オブ・ブレイド全ての故郷たる剣の王国を守りし王たらん事のみ)」

最後の一節を唱え終えた瞬間、士郎の足元から蒼き光が灯り、それは霧を押し退けて一気に全てを飲み込む。

「!!」

光が消え失せた時、周りのそれは完全に一変していた。

そこは淡い紺碧の光が満ちる謁見の間。

紺碧の光は床や遠くに見える柱、壁全てから発せられている。

士郎は幅十メートル近い赤絨毯に当然のように立っていた。

立ち位置も完全に変更され、士郎とオーテンロッゼそして『六王権』軍は数百メートルの間隔をあけて対峙し、凛達はと言えば士郎の後方の一段高い玉座の鎮座する場所に一括りに集められていた。

「・・・そうだ、俺に出来る事は剣を創る事じゃない。全ての剣が全てを忘れ安らげる唯一つの故郷を一時だけ現に呼ぶ事、それこそ・・・いやこれだけが俺に与えられた、ただ一つの力だった・・・だったのに・・・随分と遠回りしちまったな」

背中越しでも判る、士郎は苦笑していた。

「これって・・・固有結界・・・なの」

誰かがポツリと呟く。

それをメディアが完全に否定した。

「違うわ・・・これも固有世界・・・何のよ・・・この時代異常よ。同じ時代に三人もの固有世界の担い手が現れるなんて」

一方、オーテンロッゼも困惑していた。

いかなる結界であろうとも『霧中放浪(ミストロード)』が侵食していく筈。

しかし、侵食する気配は一向に見られずそれどころかまるで何かに追い立てられるように、追い詰められるように一箇所に集められ、押し潰され消え失せた。

「な、なぜ?」

そう呟いた時オーテンロッゼは以前『六王権』より言われた言葉を思い出した。

『オーテンロッゼ、貴様の固有結界確かに強大だが、無敵ではない。心せよ。貴様の結界、破壊出来る者がいるとすれば、世界を破壊出来る者か、世界に認められた世界を持つ者だけ』

あの時は話半分に聞いていたが、その言葉を思い出した今、先程までの有頂天は嘘の様に消えてなくなり、変わりに底知れぬ恐怖が全身に満ちる。

「世界に・・・認められた・・・世界・・・」

そう呟くとの士郎が右腕を大きく広げたのとはほぼ同時だった。

当然の様に士郎の右手に一振りの刀・・・虎徹が床から湧き上がりその手に納まる。

それを当然とばかりに引き抜くと同時に赤絨毯以外の床から次々と剣が湧き上がった。

そこには名剣も在ればなまくらもある。

聖剣と崇められる剣もあれば妖刀と忌み嫌われる刀もある。

全ての剣が平等に当然のように並んでいる。

そう、この地に存在しない剣などそもそも存在する筈がない。

何故ならば、此処こそあらゆる時空を、平行世界をも超えて全ての剣が集いし故郷の地。

全ての剣がいかなる名声もいかなる悪名も忘れ、等しく安らぐ事の許された約束の場所。

それ故に与えられし称号の名は『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』

全ての苦悩を打ち払い、全ての迷いを振り切り、全てを守り全てを助ける。

そんな在り得ざる夢物語を本気で追い求めた男が辿り着いた唯一無二なる確かな答え。

「・・・別に驚く事はないさ。この地にある剣は全て本物だが、ここにいる俺だけは貴様の言うように偽者、紛い物だ」

士郎は余裕で言っているのか?

答えは否だ。

この言葉にこそ『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』最大の弱点がある。

確かにこの世界に集う剣は投影による贋作ではなく正真正銘本物の剣群だ。

しかし、それと同時に此処にある剣は一時の休息、安らぎの為に来た剣達。

それ故にこの剣は無垢でもある。

すなわち、かつて剣を帯び、伝説を打ち立てた英雄の事等何一つ覚えていない。

故にこの地にある剣は全て、この世界を創った者の技量に委ねられる。

だが通常、普通の者がこの世界を創り出した所でその全てを使いきれるものではない。

せいぜいギルガメッシュの『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』と同じく、剣を弾丸として使うしか手は無い。

更にこの剣は本物であるが故に、士郎が得意とする『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』による爆破は出来ない。

この地は固有世界だがそれ故に使い手を極めて厳格に選ぶ世界でもある。

ではこの世界を創りだした士郎はどうかと言えば良い意味で例外に入る。

何故か?

士郎はゼルレッチ達より修業を受け、あらゆる並行世界に降り立ちあらゆる宝具を登録し、同時にそれらの技量を磨いてきた。

その道は険しく、血の滲むような鍛錬を重ねてきた、血反吐を吐いた事だってあった。

だが、彼は超一流の担い手にはなれない。

一本の宝具だけで見れば、なれてようやく一流に手が届く使い手がせいぜいだろう。

だが、彼はその変わりに数多くの宝具の熟練度を同じ水準にまで高めてきた、投影による補佐が無くても。

すなわち、もしもこの地にある全ての宝具を同じ水準で使いこなせるとすれば・・・間違いなく士郎はこの世界『剣の王国(キングダム・オブ・ブレイド)』の超一流の担い手だ。

此処に辿り着くまでに確かに遠回りもしたし、道にも迷った、挫けそうにもなった。

だが、士郎が歩んできたその行程、その全てが今の士郎を形作るもの、何一つとして無価値なもの、無意味なものは無かった。

「だがな、こんな偽者でも俺が俺に負けぬ限り、折れぬ限り、何よりも諦めぬ限りこの世界は永久に俺の味方だ。ならば俺はせめて剣達に恥じぬ、何よりも担い手達の名を穢さぬ戦いをして見せよう」

手に握る虎徹を振るう。

空を切る音と共に一陣の風が吹き抜け、士郎の髪とコートをはためかした。

そんな士郎の背中を見ていた一部女性陣はと言えば・・・

「リン、顔が赤いですよ」

「!!う、うっさいわねアルトリアだって・・・というかルヴィア!!あんた何顔赤くしているのよ!!」

「な、何を言っておりますの!私は単にシェロを見て何と勇ましいと思っただけで別に見惚れていた訳ではありませんわよ!!」

「返事の内容少しずれている上に、それを見惚れていたって言うのよ!!それにそこの腹黒シスター!何であんたまで赤くなっているのよ!!」

「え?私ですか?」

「あんた以外の誰がシスターだって言うのよ!」

「その・・・私も驚いています。このような少女趣味が残されていたとは・・・」

「何よ!!その少女趣味って!!」

一方、男達はといえば。

「はっはっははははは!!言うのおエミヤ!!流石は我が配下にして朋友よ!!」

「言うじゃねえか、俺のマスターを一時でも務めただけはあるな」

男女問わずの大騒ぎの背に士郎は静かにオーテンロッゼと数万の『六王権』軍を一瞥する。

「・・・行くぞ『白翼公』、その無限の再生能力、余剰未だ十分か」

戦いは士郎が似合わぬ挑発めいた言葉とそれに対する

「な、舐めおって!!高々『霧中放浪(ミストロード)』を無効化しただけで調子に乗りおって!!一人で何が出来るか!!殺せ!!『錬剣師』を殺し尽くせ!!」

激高したオーテンロッゼの咆哮めいた号令が開幕の鐘となった。

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